Vol.2 河口真理子氏

(06年6月実施)

Q. 現在SRIに関するレポートを多く書かれていますが、もともとSRIや環境問題には関心をもたれていたのでしょうか。

学生時代は経済学部で財政学を学んでいました。その頃から環境問題に関心がありましたね。近代経済学って一般的に計算できないことは「ない」という前提でモデルを作るものです。でも、公害などは市場で計算されなくても発生するわけですよね。こうした市場では計算されないけれど、「ある」ものはどのように扱うのか? これらは全部【外部不経済】としてひとくくりにされている。そして計算されない。でもこうした負の要素を生み出す外部不経済を無視しつづければ、それが積もり積もってとんでもないことになる。それが環境問題なのではないか、という問題意識を持っていて、環境経済学のようなものを学びたいと思っていました。でも、まだ企業の環境部なんてどこにもなかった時代です。経済学と環境を融合したような学問もありませんでした。進学した大学院では財政学のゼミで環境政策についての修士論文を書きましたが、社会的な関心はまだ低かったです。私は世の中の環境問題を、技術ではなく経済の問題、外部不経済を扱えない市場の問題、社会システムの問題だと考えていました。そこで、市場全体を勉強できるところは証券会社なのではないか、と思い大和証券に就職しました。

入社した頃は、外国株式部で海外マーケットの情報を分析していました。環境問題に関する勉強をしたいと思っていてもなかなかできなかったですね。その後、組織編成や部署の異動を経ながら、空いた時間や社外で環境問題について勉強するようになりました。そして社内で定期的に出している論文集のようなものに「環境経営の時代」という論文を書いたら、新聞にコラムを依頼されたりして。そうなると環境を専門にやったらどうか、という話になり、環境省などの受託調査をするコンサルティング部に異動になりました。現在は経営戦略研究部でCSRとSRIの研究をしている状況です。

Q. 河口さんがもともと環境問題に関心を持たれていたように、日本のSRIは環境問題から波及している印象がありますよね。

そうですね。日本でSRIとして最初に始まったのがエコファンドだったということもあり、SRI=投資信託(ファンド)と思っている人が多くいます。でもその考えは違います。自分が銘柄を一つ買うときに、この企業の社会的責任はどうだろう、といった発想を持って投資するのだって社会性に配慮した投資、SRIですよね。日本はアメリカなどに比べて個人で株に投資する人は少ない状況です。投資信託というのは、運用のプロがその投資方針に従って分散投資してくれますから、株式投資の初心者としては入りやすいところがあります。だから日本で広くSRIを認知させるためにSRIファンド、エコファンドからスタートすることは悪くなかったと思います。でもここまでSRIが認知されるようになってきた今では、SRIって様々なタイプがあって、エコファンドやSRIファンドだけじゃない、CSRの視点を持って自分で売り買いするという方法もありますよ、って言う考えを伝えることができたらと思っています。

Q. SRIに関して大きな役割を持つ証券会社の中では、SRIはどんな位置づけにあるのですか?

大和証券グループに関してお話しますと、現在会社の組織は大和証券グループ本社という持ち株会社があり、それが証券会社やシンクタンク、投信を作る投資信託会社などの個別の会社の株を所有している、という関係にあります。証券会社の各店舗ではお客様に、株や債券の売買の仲介、大和投信会社が運用する投資信託だけでなく、他の運用会社が運用する投信なども、などさまざまな金融商品を扱っています。エコファンド、SRIファンドを作り運用するのは投信会社です。それを販売するのが、証券会社となります。なお投資信託は金融商品なので、その運用にあたっては公正な運用をさせるために厳しいルールがあり、運用に携わる人以外は銘柄のポートフォリオや運用判断などの情報を共有できません。この2月にも大和グループではエコファンドを新たに設定しました。その際、どのようなエコファンドにするか、というレベルではグループ本社のCSR室などとも連携しますが、そのエコファンドの具体的な設計・運用についてはあくまでも投信会社が責任を持つので、私やCSR室などと情報の共有はされません。

それから、SRIファンドといってもあくまでも金融商品なので、どうしても限界がでてきてしまいます。やはりリターンが期待できそうもない銘柄は投資されません。SRIファンドやエコファンドの組入れ銘柄を、環境経営度ランキングや、CSRのランキングと思っているむきもありますが、それは違います。いくらCSRで評価が高くでも、業績動向や株価水準からみて投資できない銘柄は組入れられないのです。また、CSRでは大したことがなくても、業績などから是非組入れたい、という銘柄は入ります。だから結果として第三者の立場から見て「SRIなのに、なんでこの銘柄が入っているのか」というようなこともあるわけです。またファンドごとに運用するファンドマネージャーは異なります。最終的な投資判断はファンドマネージャーに委ねられているので、同じSRIやエコというコンセプトのファンドでも、組入れ銘柄は異なっていて当然です。

Q. CSRの評価の中にはガバナンス、環境、社会貢献や企業の取引関係など様々な側面がありますよね。もし河口さんが個別株の売買の時にCSR評価を個別のお客様に開示するとしたら、どの視点に注目しますか。

どれも同じクライテリアで評価すべきか、という点について私の切り口は少し違っていて、各企業にとって重要な評価がそれぞれあると考えています。たとえば証券会社がCSRの優先課題として環境に取り組んでいたとしても、同じ資源を使って、違うもの、たとえば誤発注をなくすとか、企業の環境評価システムを開発するなどに取り組んでいた方が社会的な効果は大きいでしょう。でも電力会社といえばやはり環境を優先してもらいたい。このようにどの側面で評価するか、またどの側面が最もその会社にとって重要か、ということは業種業態や企業の状況によって違いますよね。そこで、私が注目しているのは、アニュアルレポートでどれだけCSRについて語れるかどうか。CSRレポートは読まない人もたくさんいます。本業の収益動向に最も関心の高い投資家向けのアニュアルレポートでどこまで本業の戦略にCSRの発想を入れているか、という点で、その会社のCSRの本気度をみることができると思っています。
また、先ほども少し触れましたが、CSRで一番良い会社とSRIで買うべき会社は微妙に違います。だって、「この会社、理念はすばらしいけれど、たぶん将来無くなるよ」って思う会社には投資しないでしょう?投資家によって企業のどこを見て投資判断をするかは異なります。ある企業がすばらしいマーケティング戦略を持っているとします。そのマーケティング戦略だけを見て買うのは普通の投資家でしょうが、SRI的な観点をいれると、そのマーケティング戦略にその会社がCSRの要素をどこまで取り込んでいけるかという点に注目します。そしてすでに賢い企業は経営戦略とCSRの考えをうまく合致させることができていると思いますよ。

Q. 以前に比べて多くの企業が本格的にCSRに取り組むようになってきましたが、SRIの考え方は今後どのように変わっていくと思いますか?

今、同じSRIでもソーシャルインベストメントからサステナブルインベストメント(Sustainable Investment)へ、という動きがあります。ソーシャルというとどうしても社会運動主義的な印象が強く、この言葉に拒否感を持つ人は少なくない。社会性という意味は薄まってしまうかもしれませんが、サステナブルの方がターゲット層は広いんですよ。「持続可能な企業」、「持続可能な事業」に投資しましょう、という考えには誰も面と向かって反対できないでしょう?投資家の視点で考えれば、この企業がサステナブルかどうかは大切なポイントになります。そのサステナブルかどうかを判断するのにどういう視点が必要かといったら、これからの時代において環境や社会に配慮していなければサステナブルではないですよね。

企業に必要なのは、目先の利益だけでなく、10年後どうやったら企業が大きくなっているか、世の中の要請に沿っているか、を今から真剣に考えて、経費がかかっても人をきちんと育て、将来でも通用する環境配慮商品を作るといった発想ですよね。同様にSRIと銘をうってなくても、優れた長期投資では10年後20年後に儲かっている、株価が上がっている企業はどれか、ということを考えて投資します。その場合、目先の業績より10年後20年後の社会とその会社のあり方を考えるわけです。当然、社会から求められる良いものを誠実につくり、市民社会や地域の関係も良好でファンがたくさんいる会社は10年後も20年後も存続して繁栄しているだろう、と。知らず知らずのうちに社会性とか環境配慮という視点が長期投資には入っていますよね。

Q. 個人投資家が徐々に増えているのにも関わらず、なぜこのような長期投資という考えが日本でなかなか広まらないのでしょうか。

私は以前外国株式も扱っていたので、日本市場と海外市場の違いをみてきました。そして、その違いの原因としては、日本は投資市場ではなく「米相場」から証券市場が生まれていることにあるのかと思います。米相場は商品相場なので、かならず売りと買いを一定の期間一定内で決済しなきゃいけない。そうなると非常に投機的で、5年後はどうなっているか、という長期的な考えはありません。それに対してヨーロッパで始まった投資は、大航海時代、船を仕立てて、インドからコショウを持って帰る。帰ってくるのは3年後かな、という長期的な考えなのです。もしコショウを持って帰れば大もうけが出来る。でも戻ってこられるかどうかわからない。ここから現在のリスクをとって将来のリターンに期待する、という投資が発達した。だから、今でも投資といっても日本と欧米では投資に対する考えが根本的に違うように思います。

さらに、戦後の日本の金融政策として間接金融重視政策をとってきて銀行にお金を預けるのが良いこと、株なんて危ないものはギャンブル好きがやるもの、というイメージが広く社会に浸透、またとにかく貯金が好きという国民性もあって、なんとなく株はギャンブルと同じで危ないという意識ができてしまったのでしょう。このような考えを変えていかないといけないと思います。そのためには、長期投資というのはどういうことか、ということをしっかり啓発していかなければならない。たとえば長期的な視点で銘柄を選び100万円投資したら5年後は200万円になったので、海外旅行に行きました、とか、10年後の子どもの学費のために銘柄を選ぶ、といった長期投資家のモデルを出していかなければなりません。そんな視点を持った投資家が増えてきたら、もっと踏み込んで社会的に頑張っている銘柄を選ぼうというような投資の視点がでてくる。

Q. それでは、河口さんの今後の取り組み、そしてSRIの展望についてお聞かせください。

これから考えていきたいと思っているのは金融経済教育です。企業のCSRとして教育をやろうという動きがありますよね。金融機関の多くが金融経済教育に乗り出しています。しかし、その中身にはかなりバラツキがありますね。例えば、小学生に株のことを教えるのはどうでしょうか。高校生ぐらいになれば社会や経済の勉強として良いけれど、まだ物の善悪や世の中の仕組みがあまり分かってない小学生に「株でこうすれば儲けることができる」というメッセージを与えてよいのか、疑問に思います。もちろん今の世の中で生きていく知識として、金融や経済の知識は必要になってきますけどね。だから、そのあたりのことも今度考えてみたいです。

先ほどお話しましたが、日本には株式投資の文化があまりありません。そこにSRIという考えが上から降ってしまいました。もとから株式投資をするという基盤がないと、いくらSRIファンドが良くても投資しないですよね。しかし今後、お金に余裕があって、生活も楽しみたいと思っている団塊の世代には長期投資の視点が十分ありうると思います。その際、SRIという視点ではなくて、長期投資という広い意味の中で、「社会問題や環境問題に取り組んでいるからこの企業が好き」という投資家が増えてくれば、わざわざSRIという言葉を使わなくても自然と正しい方向に行くのではないでしょうか。

(聞き手:SIF-Japan Students 小野島 茉莉、吉田 守博)

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